なぜライフコースを学ぶのか?
医師として様々な人に関わる上で、よりよく患者さんを理解するために何ができるだろう?
2021年、医学生であるTEAM関西幹部が1年間を通して学んでいこうと選んだテーマは、
「医療×ライフコース」です。
人生の軌跡、ライフコースのあり方はますます多様化しています。
このような時代に、その場その時という人生の一部だけではなく、
「ライフコース」という視点の補助線を引いて、
人生全体を見渡しながら患者背景を理解していくことは
より良い医療の実現につながるのではないでしょうか。
ライフコースを学ぶ意義
私たちは「ライフコース」という視点の補助線引くことには、3つの効果があると考えています。
①患者さんをより多面的に捉え理解できる
ライフコースの視点を持って患者さんと向き合うことで、患者さんの生活や疾患の背景、患者さん自身の希望なども考慮できるようになります。現在の疾患だけにとどまらない「患者背景」を具体的に捉え、患者さんを多面的に理解することができます。
②診療の方法そのものを見直すきっかけになる
私たちが日ごろ学んでいる診断や治療は、患者さんが持っている疾患への対処に焦点を当てています。もちろんこういった技術は重要ですが、さらにここにライフコースの視点を加えることで、それぞれの患者さんに合わせた診療など、方法論のレベルから再考する機会になるかもしれません。
③より良い医療の提供につながる
患者理解や診療方法の改善は、信頼関係の構築、患者背景を踏まえた様々な配慮、限られた診療時間の中での効果的な問診、疾患やトラブル発生の予防、必要な医療福祉サービスの紹介など、実際の医療現場でよりよい医療を提供することに役立つことが期待されます。
ライフコースに関する資料pdfをGoogle driveにて公開しております。
ご自由にダウンロードください。
2020年12月の勉強会でプレゼンを担当した相京・磯邊の解説入りとなっております。
Column -
「医学生として何を学ぶべきか」
ライフコース企画発案者より
「医学生として何を学ぶべきか」
あまりにも大きく、身の丈を知らない問いかもしれません。
しかし、学生だからこそ考えるべき問いでもあります。
医学部では、人体の正常と異常を学び、疾患の診断と治療を学びます。これらの知識がなければ医療はできません。しかし、これらの知識だけで十分ということは決してありません。これらの知識をどのように応用するべきか、ひるがえって、応用のためにはどのような知識を身に着けておくべきか。こういったことを学ぶ必要があります。これは臨床現場における思考法に他なりません。
たとえば「臨床推論」は、臨床現場における思考法を系統的に整理したものであり、まさに学ぶべきものの一つです。他方、臨床現場における思考法のなかには、十分整理されていないものも沢山あります。
医療者としては、患者さんの疾患だけに注目するのではなく、患者さんのよりよい暮らしの実現を志したいものです。私たち医学生も、BPSモデルを学び、心理・社会的背景の問診について指導されます。しかし、こういった情報の活かし方、すなわち全人的医療のための思考法については、誰もはっきりしたことを言いません。
もちろん、こういった能力を高めるためには、臨床における経験と内省が重要であることは疑うべくもありません。とはいえ、学生にも学べることはあるはずです。私たちは「ライフコース」に注目することを提案します。
ライフコースとは、もともと社会学などの分野で用いられてきた概念です。ライフステージのような紋切り型ではなく、現代人の多様な生き方を論じるための用語として登場しました。医学の世界でも、エピジェネティクスなどの基礎研究の発展と関連して、「ライフコース疫学」が流行の兆しを見せています。
私たちは、この考え方を一般臨床に当てはめ、多様な患者さんとの向き合い方についてじっくり考えていくことにしました。これまでにない新しい試みであり、教科書などもありません。しかし、先生方とのやりとりを重ねる中で、最初はおぼろげだったテーマも次第にそれらしい形を取るようになります。
患者さんと向き合うための考え方としての「ライフコース」、きっとお楽しみいただけることと思います。皆様のご参加をお待ちしております。
TEAM関西 2021年度 副代表
広島大学医学部医学科5年・同大学院医系科学研究科博士2年 相京辰樹